かごめかごめ物語(仮)公開版



 斯くして束の間の滞在期間は終わりを遂げた。
 総一郎は篁に別れを告げ町を去る。

 其れは滞在と呼ぶには余りに短過ぎる日々。
 セピア色の街並に、面影と記憶が重なっては通り過ぎて、彼を思い出の世界へと幽閉する。
 淀みに浮かぶ泡沫の様に、人の住処は久しく留まり無い。

 再び総一郎の身に手紙が届く。
 久々の再会が各々の心を満たす暇も許されず、また一枚の手紙が彼を導いてゆく。



〜〜〜大尉からの手紙



第二劇



 大尉殿から手紙を頂いた。

 如何やら漸く、連隊に補充が為されるようだ。
 かなりの人員を廻して貰えるらしく、さて………どれだけ欠員が埋まって呉れるのか。
 只でさえ人手不足なのだから、幾らでも良い。楽しみだ。
 
 ………………。
 ………。

 手紙の最後の文面に―――

 休暇中すまない。
 至急戻れ。

 とさえ記されていなければ、だがな………。

 人員の補充とあれば、装備に食料、部屋決めに、先延ばしにしていた古参兵の人事、やる事は山ほどある。
 大尉殿も勿論其の例外では無いらしく、己への面子を潰してまで呼び出しを掛けるとは、一体どれ程向こうはごった返しているのか。正直、其の事を考えると戻るのが億劫になる。

 手紙で大尉殿は己を特務曹長に推薦すると云っている。
 元々篁は貴族の出であるし、先の戦の功績もある。十中八九受け入れられるだろう、との事。

 ………………。
 心の内を明かすと、嬉しい。
 特務曹長と云えば、下士官の己が上り詰める事の出来る最上位だ。

 士官並の待遇を許され、此れはもしや憧れの小隊長でも任せて貰えるのか。
 だとしたら大躍進だ。軍に忠誠を誓ってきて、本当に良かった。
 給金も勿論増えるだろうし、今度珍しい舶来品を見繕って、此処の家の奴らに贈り物をしようか。なかなか、悪くない。

 ………………。
 ………。

 ………………。
 ………。

#客室

 さてと………。
 そろそろ行くかな。

 一通り支度を終わらせて、軽く周囲を見回した。
 忘れ物は無い、筈。

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・見る
部屋
荷物

・考える
昇進
此れから
$例の蕎麦の事
$スターリン

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・見る 部屋

【総一郎】………………。

 此の部屋ともお別れか。
 今は沙耶の奴が己の部屋を使っているらしく、真坂客間に自分が泊まる日が来るとは思わなかった。
 ほんの数日だけだったが、少し名残惜しい。

 別段居心地も悪くなかったな。

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・見る 荷物

 鞄一つと身軽なものだ。
 行きに持って来た荷物は、篁の連中に呉れてやった。
 元々大半が正二が好みそうな本に、叔父上が好きそうな舶来酒、それに餓鬼が喜びそうな菓子やら、土産ばかりだ。

 そうそう、叔父上も正二も、沙耶も春夏も土産を見ると途端に態度を変えた。
 呉れてやるともう、叔父上でさえ目の色を輝かせて………全く、仕方の無い連中だ。

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・考える 昇進

 ふっ………ふふふっ………。
 特務曹長か………ふ、ふふふっ……。
 大尉殿の下に配属されて、本当に良かった………。

 大日本帝国陸軍76連隊所属、篁総一郎特務曹長―――っ〜〜〜!
 良い!素晴らしく良し!
 此れだけの待遇とあれば、叔父上も流石に納得してくれよう!

 ………………。
 ………。

 ん………。
 そうか。そうだな……。

 ………………。
 ………今度は己が、無茶な命令をする番か。

 ………………。
 ………。

 己は部下に、死ねと言えるだろうか………。
 ………自信が無い。

 ………………。
 ………。

///////////////

・考える 此れから

 何とか日が暮れるまでに山越えをしなけばならない。
 連隊の呼び出しも火急であろうし、できれば今日中に宿場町まで出れれば良いのだが………。

 汽車駅までの馬車にどれだけ早く巡り合えるか如何か。
 体力の問題からも切実だな。

///////////////

##選択肢から抜ける

 さて、行くか。

#廊下
#春夏登場

【春夏】もう行くノ?

【己】早いな、もう起きているのか。

【春夏】ヘヘ、お仕事だからネ。

【春夏】ン………総一郎さま、もう一日ぐらいゆっくりしてってヨ。

 この娘は何度「さま」を付けるなと言えば気が済むんだ………。

【春夏】ね?サービス一杯しちゃうからさっ、うふん♪

【己】無理だ。如何しても戻らなくてはならなくなった。

【春夏】この前苦労して来たばっかりだよ〜、身体に毒だと思うナー。

【己】問題無い。

【春夏】うっ………で、デモ、ほ、ホラ………ネ……?

【己】何か引き止める理由でもあるのか?

【春夏】………………。

【春夏】どうなんデショ〜〜。ちょっと名残惜しいし、呼び止めて長居してくれれば嬉しいシ。

【己】ふぅん………。

///////////////
##

・見る
春夏
廊下

・話す 
引き止める理由
手紙の事

##
///////////////

・見る 春夏

 少し様子が妙だ。
 廊下で偶然会ったのだが、如何も見計らって声を掛けられた気がしないでもない。

 いぶかしむ様に春夏を眺めると、誤魔化すように異国的な栗毛が笑った。
 不思議な女だ。
 気分立場で性格が入れ替わって、どれが本当の彼女なのか見透かせない。

 そうそう、正二の土産に持って来た本を分けてやると、小躍りして一日で読み切ってしまった。全く、脱脂綿みたいな女だ。

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・見る 廊下

 こう見ると良く馴染む。
 蔦姉のあの見違える様な姿を見て、此の家への己の憎悪は格段に和らいだ。
 あの翌朝になってから、途端に己の郷愁は花開いて、沙耶に誘われる侭に町を歩き回って昔を懐かしんだ。

 事情が許すなら、もう少しだけ滞在しても良かったな。

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・話す 引き止める理由

【己】叔父上に頼まれたな?

【春夏】ぎくっ。

【春夏】そ、それは深読みというものデスヨ、総一郎さま。

【己】だから「さま」付けするな、鬱陶しい。

【春夏】………………。

【春夏】………今、ちょっと傷付きました……。

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・話す 手紙の事

【己】今さら如何でも良いのだが。手紙を出したのはお前か?

【春夏】え、手紙?

【己】ああ。叔父上の訃報が届いてな………。

【春夏】………………。

【春夏】え〜〜〜それはつまり………。

【己】ああ、そういう事だ。

【春夏】ご、ごくり………。

【春夏】じゃ、じゃああの旦那様は―――ゾンビですかぁっ?!

【己】普通に考えろっ、此の莫迦娘っ!

#選択肢から抜ける


【己】休暇が取れたらまた来る。

【春夏】え、ええ………。

【己】………………。

 芳しくないな。

【己】如何した?

【春夏】へへ、何でもないデス♪

【己】………………。

 まあ良い。
 どうせ己は此処から出てゆく身だ。

【己】では、またな。

【春夏】必ず帰って来て下さいね。えと………総一郎さま……。

【己】………またな。

【春夏】はいっ♪




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