かごめかごめ物語(仮)公開版



〜〜〜おかえりなさい




 ガタガタ………。

 あ………。
 診療所の戸が開いた。

 少しフラフラと覚束無い足取りで、彼女が現れる。

#画面ブラック 蔦枝立ち絵

 ………………。
 ………。

 ………………。
 ………。

 彼女は己の目の前で立ち止まった。
 そうしてゆっくりと焦点の合わない瞳を己に重ね合わせて、儚げに微笑む。

【己】ぁ……ぁぁ………。

 不甲斐ない………。
 何て声を掛ければいいのか判らない………。

【彼女】………………。

【彼女】………………。

 彼女は何も喋らない。
 ただただジッと、亡霊の様に傍らに佇むだけ。

【己】………………。

 彼女はどうなってしまったのだろうか。
 言葉は………話せるのだろうか。

 すがる様に瞳を返すと、其処には薄い微笑のみ。

【己】えっ……。

 冷たい、細い指先が己の右手を包み込んだ。
 何て冷たい手だろう………。
 スベスベとやわらかくて、少し気持ち良い。

【彼女】………………。

【彼女】おかえりなさい………。

【己】っ………?!

【彼女】………………。

【彼女】おかえりなさい………総一郎さま………。

【己】つ………蔦、蔦姉………。

【蔦枝】ふふ………おかえりなさい………。

#立ち絵消える

【己】あっ………。

 蔦姉はそれだけ云って立ち去った。
 実際はゆっくりとゆっくりと、随分と遅い歩だったが、己は追い掛ける事すら出来なかった。

 ………………。
 ………。

 おかえりなさい。
 おかえりなさい、総一郎さま。

 言葉が頭の中を反響する。
 記憶の中の蔦姉と、食い違う現実が己を混乱させる。

 快方には向かった。
 実際に回復もしたのだろう。

 ………………。
 ………。

 けれど………蔦姉は、精霊の様にあまりに儚くて―――

【六郎】どうされました?

 ………………。
 ………。

【六郎】もしかして、疲れていますか?

【己】い、や………そんな事は無い………。

【六郎】少し診ましょう。

【己】………注射は嫌いだ。

【六郎】そう子供みたいな事言わず、さあ。

【己】………あ、ああ……。




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