かごめかごめ物語(仮)公開版
〜〜〜六郎
#主治医、六郎 登場
【謎の男】お客さまですか?
不意に―――書斎の奥から穏やかな男の声が響く。
【正二】あ、ああ………。
どういった間柄なのだろうか。
正二の其の唯の感嘆詞の中に、微かな親しみと、兄を思う敬愛のようなものが混じっていた。
書斎からひょっこり顔を出した其の男を見る。
………………。
【正二】紹介しよう。彼は小林六郎。
【正二】ちょっとした縁で知り合ってな、今は此の篁町で掛かり付け医をしていただいている。
【六郎】六郎です。此れからも良しなに……。
六郎と名乗る其の男は、柔和な笑顔を浮かべて己に握手を求めた。
【己】………………。
掛かり付け医………ね……。
ふぅん………。
面倒だが握手に応えた。
………………。
ほう………此れは珍しい。
此の男。妙に華奢に見えるが………指先の感触からして、医者と呼ぶに相応と云い難いものだな。
手首から指先の先端まで、其の細い五指はしっかりと筋肉の筋に繋がれて、その癖隠すように六郎は柔らかい握力で握り返して来る。
【六郎】………………。
ん………?
何だ……?
朗らかなその男の顔が、突然奇妙に無表情めいた姿に変る。
………………。
………。
気取られたか……?
【正二】そして………。
【正二】そしてこの横柄千万な男が………。
【己】………………。
ギロリと正二の顔を睨み付ける。
………………。
………。
そんな己の様子を知ってか、知らないのか。
また疲れ果てたように溜息をついて、言葉を止める。
【正二】………………。
【正二】ああ、くそっ……。
【正二】この男の名は総一郎。
【正二】先代、篁景芳の兄。篁秀経さまの一人子。
【正二】つまり―――こいつは俺の従兄弟であり、篁総一郎であるのだ。
#ウェイト 中
【小娘】ぇ………。
【小娘】………………。
【小娘】総一郎………さま……?
【己】………………。
不愉快だ。
どいつもこいつも………。
【六郎】篁の親族の方でしたか。
【己】………………。
【己】ああ。
【己】………………。
【己】似てないだろう。
【六郎】いえ、そんなことはないですよ。
【己】そうかな………。
そう、穏やかな声が言葉を返す。
【己】短い間だが、宜しくな。
【六郎】ええ、此方こそ。
【己】………………。
悪い男では無いのかもしれない。
少なくとも、人を親しませる才能は持ち合わせているようだ。
知性というのは、得てして人に厭味を思わせるものだが………此れは面白そうな男だ。
【正二】………………。
【正二】………………。
【正二】やれやれ………仕方ねっか……。
正二は荘厳に振舞っていた。
若い癖に妙に威厳を保とうと、時代錯誤なくらいに胸を張って地方領主ぶっていたが………しかしとうとう諦めたらしい。
疲れた様子で其の頬に手を当てると、途端に豹変した。
【正二】春夏ちゃん、お茶お願い。あ、二人分ね。
【春夏】えっ、あっ………は、はい……。
【正二】いつも通りでいいよ。コイツそういうの嫌いみたいだしさ。
【正二】そうだろ。
【己】当然だ。
【正二】………………。
【正二】ったく………。
【六郎】では、私は席を外しますね。仕事も残っていますし。
【正二】あ、すみません六郎さん……。
【六郎】いえいえ。私個人として、こういった来客は大歓迎ですよ。
【六郎】………………。
【六郎】ふっ……。
………と、六郎は意味有り気に己を見る。
【六郎】何分こんな所でしょう?退屈なものでして。
【正二】そりゃ……そうなんだけどね………。
【春夏】では、行って参ります。
【正二】お願い。ああ、居間の方に頼むよ。
【春夏】はいっ♪
#春夏、去る
【六郎】………………。
#六郎、去る
【正二】行くか。
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