かごめかごめ物語(仮)公開版



〜〜〜総一郎




【己】篁家当主は此方か。

【声】………………。

【当主】そうだ。

【己】用件がある。ご応対願おう。

【当主】………………。

【当主】何か手違いがあったのだろうか。

【当主】私は半刻ほどお待ち頂くよう女中に伝えた筈だが………。

【己】聞いた。

【当主】………………。

【小娘】申し訳ありません、正二さま………。

【当主】………………。

【当主】そうか。

【当主】………………。

【当主】其れほど………火急の用件なのか?

【己】否、さしてそういう訳でも無いな。

【小娘】そんナ………。

【当主】………………。

【当主】すまない。ならば後にしてくれたまえ。此方は些か急ぎたいのだ。

【己】其れは叶わぬ願いだな。

【当主】………………。

【当主】………………。

【当主】君っ!

【己】クックックックッ………。

【己】………………。

【己】似合わないな。

【当主】何……?

【己】………………。

【己】阿呆が。何時までそんな道化芝居を続けるつもりだよ。

【当主】そう云う言い方は止めてくれ。

【当主】此れでも私は篁地方の主なのだよ。まかりなりにもな………。

【己】莫迦が。そんな下らぬ地位は捨ててしまえ。やりたい者に押し付けておけば良いではないか。

【当主】………………。

【己】………………。

【己】そう、何もお前がやる事は無い。そうだろう?

【当主】………………。

【当主】………………。

【当主】誰だ………?

【当主】お前………誰、だ……?

【己】己だよ。

【己】そう、己だ。

【己】くっくっくっくっ………。相変わらず阿呆だな、貴様は。

【当主】………………。

【己】それとも本当に忘れてしまったか?

【己】確かに鴉にすら劣りかねない貴様の頭だ、納得出来ないこともないな。

【己】全く―――阿呆極まりない。

【当主】………………。

【当主】いい加減にしてくれ。

【己】ふんっ……。

 ………………。
 ………。

 ………………。
 ………。

【当主】わかった。其処まで言うなら、会おう。

【己】ふっ……そうだ。最初からそうしてれば良いではないか。

【当主】………………。

 ………………。
 ………。

 ………………。
 ………。

 重苦しい音を立てて書斎の洋扉が開く。
 洋室独特の篭った空気が廊下に流れ込んで、ふと、また………忌々しい記憶が視界を通り過ぎる。

#篁家当主、篁正二 登場

【己】よう。

【当主】………………。

【当主】………………。

 男にとって其れは、まさに青天の霹靂に等しい事件であったらしい。
 瞳を皿の様に剥き出しにして、目の前に広がる光景が信じられないかのように、己を見る。

【己】何を惚けた面をしていやがる。

【己】折角来てやったというのに、挨拶も無しか?

【当主】………………。

【当主】………………。

 返事は無い。
 ただただ唖然と、当主は己の顔だけを凝視し続ける。

【己】………………。

 くっくっくっくっ………。

 些か愉快だ。
 此の男の間抜け面(づら)を見られただけで、疲れる長旅を越えてきた甲斐があるというものだ。

【当主】そっ―――

【当主】そ、総一郎っ!い、やっ、そうっ!総一郎かっ!?

【当主】………お前っ、何でっ?!

【己】………………。

【己】ふんっ……。

 矢張り―――そんなことだろうと思ったさ。

 ………………。
 ………。

 此れは―――あの旨も嘘か誠か、疑わしいものだな。

【己】随分な挨拶だな、正二よ。

【正二】お前っ、何故っ……。

【己】………………。

 何故帰って来た。
 大方そう続けようとしたのだろう。

【己】………………。

【己】………………。

 そうか………帰って来るべきでは、無かったのか………?

【己】莫迦が、落ち着けよ。

【正二】い、否だがっ……。

【己】己はな。職業柄かもしれんが、悪戯に混乱する奴が一番許せない。

【正二】………………。

【正二】………………。

【己】それに―――呼び出したのはお前だった筈だが………はてな。

【正二】なんだと………?

【己】まあ良い。粗方そんな気はしていた。

【正二】………………。

【正二】………………。

 己の朋来は、此の男にとって歓迎すべき事件では無かったようだ。
 正二の顔は真っ青に張り詰めて、瞳は己を凝視して離れず―――そして何か、必死に驚愕に支配されながらも思考を大急ぎで廻らせている。ように察せなくもないな。

【己】………………。

 心外だな………。
 真坂此処までの反応をされるとは、夢にも思っていなかった。

 ………………。
 ………。

 友よ………其れがお前の答えなのか………?




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