かごめかごめ物語(仮)公開版



〜〜〜女中の娘




#居間

【春夏】ア、起きちゃった?

【己】………………。

【己】………………。

 寝て起きても………現実は変らんか……。

【己】醜態を晒したな。

【春夏】そんなことないヨ。

【春夏】だってね………。

 頭が少し痛いな………。

 ………………。
 ………。

 ………………。
 ………。

【己】あ……?今何か言ったか?

【春夏】………………。

【春夏】な、何でもないヨ……。

【己】………………。

 何もそんなに顔を真っ赤にして、怒る事でもあるまい。

【己】そう怒るな。

【春夏】怒ってるんじゃナイの〜〜!

【己】………ふぅん。

 ………………。
 ………。

 どうでも良い。

 ………………。
 ………。

 ………………。
 ………。

【己】そういえば、宿題は終わったのか?

【春夏】まだだヨ。

【春夏】エヘヘ、総一郎さんに教えて貰おうと待ってたんだー♪

【己】勉学は嫌いだ。

【春夏】アレ……そうなの?意外カモ……。

【己】………………。

【己】莫迦にするな。嫌いだが一応は修めた。好きかどうかの問題だ。

【春夏】あははっ、なにそれ変ナノっ〜。

【己】………………。

【己】笑う奴には教えてやらん。

【春夏】ああっ、待って、怒らないでヨォ〜もうっ。

【己】………………。

 ………………。
 ………。

 女は………苦手だな………。

【春夏】ココなんだけどね………総一郎さん分かる?

【己】………………。

 近代史か。
 意外だな……。

 てっきり読み書き算術程度の勉強かと思っていたのだが………此れは中々……。

【己】わかる。

【春夏】本当っ?!

【己】わかるが………お前、もしかして賢い方なのか?

【春夏】………………。

【春夏】そんなことないヨ?

【己】ならその間は何だ。

【春夏】テヘヘ………なんでしょ〜♪

【己】………………。

【己】高等小か。

//////////
 高等小学校の事。
 因みに義務教育ではなく、当時は一部の裕福な子供のみ通える場所だった。
 大正8年以降の修業年数は2年間。

 男女とも袴を着用。冬は羽織袴で登校し、男子は帽子を被る。
 教科は図画、音楽、地理、歴史、英語、体育などがあった。

 昭和16年の国民学校令により廃止。
//////////

【春夏】ウン。一昨年に尋常小卒業したばっかりだよ。

/////////
 尋常小学校の事。
 時期により年数が異なるが、大正8年時点での修業年数は6年。
 幼い弟をおぶりながら通学修身する学童の姿も、珍しくは無かった。

 初期は地方に学校設置義務が課せられていなかった為、義務化されるまで普及が遅れた市町村もある。
 学校に通学せずとも、家庭学習により就学義務が果たされるとの、特別の規定もあった。

 高等小学校と同じく、昭和16年の国民学校令により廃止。

/////////

【己】………………。

 正二の奴め。
 たかが女中如きによくやるものだ。

 ………………。
 ………。

 褒めてやろう。

【己】戊辰戦争の終了は1869年だ。

【春夏】オオっ!ナイスです、総一郎さん。

 な、ないす……?
 訳の判らない言葉をのたまって、春夏は畳に敷いた黒板に白墨を擦り付ける。

【己】………………。

【己】ごほんっ、まあ要するにだ。

【春夏】ハイっ。

【己】………………。

 やり難いな………。

【己】戊辰戦争は新政府軍と旧幕府軍との、権力争いのいざこざだ。

【己】鳥羽伏見の戦いから、甲州勝沼の戦い、宇都宮の戦いと戦地は北上して行き、会津戦争、五稜郭での函館戦争を経て終結した。

【己】幕府軍に対し、新政府軍は数でこそ劣ったが兵質は精強で、海軍力、近代兵器で優勢に立つ幕府軍を圧倒する。

【己】装備だけが戦争では無いという、良い例だな。

【春夏】へ〜〜。

【己】特に徳川慶喜の戦線からの逃亡は、幕府軍側の統率、忠誠を大きく瓦解させた。

【己】時として指揮官は部下を見殺しにしなくてはならないが、あまりお粗末なのは宜しく無いということだ。覚えておけ。

【春夏】はいっ!

【己】指揮官足る者、卑怯であってはならん。常に己の命と部下の命、其の二つを果敢に両天秤に掛けられる人物でなくてはならん。

【春夏】わかりましたっ。

【己】………………。

【己】ふっ………お前も性格だけなら将兵として良い部類だ。喜べ。

【春夏】ありがとうございマスっ!

【己】つまり………堕落した将兵では戦は勝て無い。そういうことだ、分ったな?

【春夏】はい〜!

 ………………。
 ………。

 ………………。
 ………。

【春夏】それでそれで………アノォ……次なんですけどぉ………。

【己】うむ、どれだ。

【春夏】コレデス。

#太字
 和歌集・比佐古を参考に、和歌を一曲作ってくるべし。

【己】………………。

【己】すまん、和歌は駄目だ。

【春夏】エ〜〜〜〜!

【己】男の嗜むものでは無い。

【春夏】そんなことないですヨ〜〜、私総一郎さんが作った歌聴きたいナァ。

【己】………………。

【己】ばっ、莫迦を言うなっ!

【春夏】アレアレ、総一郎さんってば照れちゃってマス?

【己】断じて無い!

 全くっ………最近の婦女子どもは………!

【春夏】エヘヘっ、じゃあ今度一曲作ってみて下さい。

【春夏】………あ、エット……私の……為に………。

【己】………………。

【己】………………。

【己】さて、と………。

 和歌だの俳句だの、最近は妙なものが流行っているな。

【己】………………。

 すたーりん 勝て撃て勝てよ すたーりん

 ………………。
 ふん………今一つだな。季語入れ忘れた。

【春夏】ああっ、ちょっと逃げないでヨぉ〜!

【己】煩いぞ、此の莫迦娘が。

 そんなもの嗜んで、何が面白いのやら。

【春夏】モウっ、バカバカ言わないでくださいっ。乙女の心が傷付くんデスぅっ。

 ちっ……。

【己】黙れ。………己はちょっと散歩に行ってくる。

【春夏】逃げるノ?

【己】………………。

【己】莫迦を言え、断っじて否だ。

【春夏】あははっ……♪

【己】………………。

【己】………………。

【己】では、行ってくる。

【春夏】案内シヨカ?

【己】余計なお世話だ。

【春夏】………ソカ。

【春夏】………………。

【春夏】またネ、総一郎さま。

 ………………。
 最後の言葉は不必要にやさしい抑揚だった。

【己】………………。

 やめろ……。
 其の呼ばれ方は………嫌いだ………。

#画面ブラックアウト OR 廊下

 ………………。
 ………。

 ………………。
 ………。

 奇妙なものだ。
 今も忌々しさのあまり、焼き払ってしまいたくなる程だが………。

 ………………。
 ………。

 望郷は望郷として………人の心に在るものだな………。




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