暴れん坊将軍様
〜〜〜暴れん坊将軍様
「暴れん坊将軍様!!」
景気の好い効果音と共にブラウン管に白馬に乗った中年が颯爽と現れる。
日売テレビが誇る放映十数年の長寿時代劇だ。
時は元文、舞台は江戸。
関ヶ原での大戦も三十数年の昔に隔て、かりそめにも平和の訪れた時代。
だが、その平和故の不正や不条理がはびこっていた。
その時代………。
将軍家の直系が途絶え、平壌より一人の漢が新将軍として江戸に迎えられる。
その者の名は………。
徳川正日。
一騎当千の光明星と謳われる者。
朝鮮労○党から来た江戸の新しい独裁者。
何より民のことを想う正日は旗本三男坊、金新之助と扮し、自ら江戸の町にはびこる悪を断つ。
………といった番組である。
ともかくこの番組を楽しみにしていた私は姿勢を正してテレビに集中した。
………………………。
………………………………。
………………………………………。
毎度幹部が止めるのも聞かず新之助は江戸の町へと降りる。
いつものように新之助は『火消しの民族の星組』を訪れるが、そこには米問屋の娘、お紗枝が救いを懇願する姿があった。
新之助はその間に割って入り、民族の星組の人々と共にお紗枝の話を聞く。
頭「こちらは遊び人の新さんでさ。大丈夫ですぜ、この人が信用できるのは私が保証しまっさ」
お決まりどおり頭が新之助を紹介する。
娘は話し始めた。
自分は幕府お墨付きの米問屋の娘で、その米は献上という形で将軍様のお口にも入ること。
自分の父親が酒に酔った勢いで人を殺めたという疑いをかけられていること。
そして捕らえられた父親の代わりに、その弟である叔父が家の後を継いだこと。
その父親の投獄には叔父が絡んでいるかもしれないということ。
それまで健全な商売方法をとってきたものが、叔父に変わってきな臭い方向へと進みつつあること。
また、自分には想い人がいるのに無理矢理叔父の息子と祝言を挙げさせられそうなこと。
そして最後に、自分に想い人がいることを知った叔父が、その想い人に手切れを求めて嫌がらせを続けていることを話した。
お紗枝の話を聞いた民族の星組と新之助は、お人好しにも彼女を助けてやることを約束する。
お紗枝は頭の勧めもあって帰り道を新之助に送ってもらうことになる。
その帰り道、お紗枝に声をかける青年が現れた。
中々の好青年で、どうやらこの青年がお紗枝の想い人であるらしかった。
そこに青年……良吉を待ち構えていたならず者達が現れる。
「おっ、おぼえてやがれっ!お頭に報告だ!!」
いかにも頭の悪そうな後ゼリフを残し、ならず者達は新之助に退散させられる。
「それでしっぽをまいて逃げてきた……というわけか」
「ひっひぃ〜〜お、お赦しを……!グボッ!!」
「お、親分、お、俺らなんかじゃ……アゲッ!」
ドチャチャ!!
「ふん、お前らも使えなければこうなる」
「ひぃぃ!!」
全裸のやくざ親分が部下を叱咤する。
ならず者達が大急ぎで親分の前から走り去ってゆく。
そこに頭巾を被った武士風の男と、腹のでっぷりと出た町人風の男が現れた。
「……これはこれはお奉行さま。何のご用でしょう」
「今のザマは何だ。私はこんなところでボロを出すつもりはないのだぞ」
「まったく、その通りですとも」
紀州屋と呼ばれた男はお奉行の言葉に一も二も無く頷いた。
それから悪そ〜な会話をして番組はCMに入った。
「墓に入れば皆同じ、入れるだけでもありがたや」
「家族割引クーポン付き通夜告別式場、友引特別キャンペーン実施中」
「遠心分離葬祭をぜひご利用下さい」
「お線香のことなら………」
「………………………」
「………………………」
「動悸、息切れ、加速、その他慢性的な症状に効きます」
「ニトログリセリン100%配合」
「………この薬は用法・容量を正しく守って、決して強い衝撃を与えないようにしましょう」
と、唐突にCMが終わり屋根の上を疾走する二、三人の集団が映し出される。
………………………。
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………………………………………。
正日の放った特殊偵察部隊『悦び組』は悪代官と現紀州屋の真の狙いを付きとめる。
現紀州屋は悪代官と結託し、前紀州屋を無実の罪に陥れることによって家元の座を奪ったのだった。
悪代官は謝礼として多額の賄賂を受け取る。
しかし悪代官の真の目的は、賄賂を受け取ることなどではなかった。
悪代官の真の目的………。
それは紀州屋に取り入り、三日後に献上される米に毒を盛ることだった。
将軍様毒殺!
それは悦び組を介して正日の耳に入る。
激昂した正日はさっそうと代官、片岡の屋敷へと乗り込んだ。
「くっくっくっ、これで後はお紗枝が息子のものになりさえすれば……」
「紀州屋は貴様の天下というわけだ」
「これも片岡様のおかげでございます」
紀州屋が、重そうな桐箱を悪代官に差し出す。
「ほう、いつもより多いではないか」
「片岡様あっての紀州屋、これはほんの気持ちに御座ります」
「くっくっくっ、心得ているではないか。これからもお互い手を組んでゆこうぞ」
「ほっほっほっ、それはもう、わたくしと片岡様の仲で御座いますから………」
「くっくっくっくっ………」
「ほっほっほっほっ………」
………………………。
『国境の警備は万全か?』
突如、無駄に凛とした声が響き渡る。
「な、なにやつ、出て来い!!」
悪代官が吠えた。
代官屋敷の庭。
そこに金新之助に扮した正日の姿があった。
新之助「代官・片岡久三。貴様、党の同志の身でありながら紀州屋と結託し、私利私欲に走るとは許し難しことセンバン、この場で銃殺刑に投じよ」
代官「なにぬかしておるか、貴様よもや生きて帰れるとは思っておらぬよな」
新之助「………………………」
新之助「久三、余の顔を見忘れたか?」
代官「なにぃ〜〜余だとぉ〜〜〜」
代官「………!?あ、あなた様は北都の!?」
紀州屋「な、なんですとぉ………」
新之助を正日と知って悪人二人はその場に平伏す。
正日「片岡久三、貴様それだけで飽き足りず紀州屋さえも裏切り、間者を差し向け献上米に毒を盛ろうとしたこと………既に明白であるぞ」
紀州屋「な、何ですって。お代官様これはいったいどういうことでありますか」
代官「え、え〜いうるさい、ワシはそんなことは知らぬ」
正日「知らぬというなら思い出させてやろう、これへ」
正日の合図と共に代官の間者が縄に縛られて現れる。
お得意の拉致部隊にて掻っ攫ってきたのだ。
正日「これでもしらを切るつもりか」
紀州屋「お、お前は新入りの………」
代官「………………………」
代官「……ええ〜〜い、こんな場所に上様がおろうはずがないわっ!!この者は上様の名を騙りし不届き者じゃ!ものども出会え、出会え!!ええい!切り捨てぇい!!」
どどどどどどど………
屋敷中に騒々しい音が轟き、正日を真剣の武士達が囲む。
正日「………………………」
チャカ……
なぜか悲しそうな目をした正日も、トカレフの安全装置を外す。
パン………!
武士1「ぐふっ……」
パン…パン…パン…パン…パン………!
武士2「しぇーっ!」
武士3「あべべべ……」
武士4「うっうわあぁぁっ……ぎゃっ………」
武士5「ちにゃっ………!」
武士6「ひでぶ!!」
ドチャチャチャ!
累々と死体が積み重なってゆく。
やくざ頭 「ふん、言っておくが俺は部下のようにうまくはいかな………」
パン!
やくざ頭 「けぽっ!!!」
代官 「ええい、お主も行かぬか!」
紀州屋「たったすけ……」
パン!
紀州屋 「ばわ!!」
ドシャ!ドシャ!
バッ!
と、ここで何を思ったか、代官は自らの身体を仰向けに投げ出した。
代官「こ…こんな無抵抗な男を殺そうってのかい!え!?おい!!」
パン!
なんの躊躇いもなく引き金を引く将軍様。その目は、死んだ魚のようだ。
代官「ひべべーっ!!じょ、冗談だろ!?ねえ!?ちょっと!!」
パン!
代官「あろ!!」
正日「ふう……。民主主義も大変だ」
そう憂いたっぷりにきめ台詞を吐いて将軍様は銃を懐にしまい、そしてハンナの木霊とともに去っていった……。
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